古民家を改修し宿を経営。農体験と自然食を提供する「菜花の庄」って?
written by 川西里奈
栃木県の那珂川町にある農園民泊「菜花の庄」。田んぼに囲まれた自然豊かな環境の中で、古民家に宿泊し里山の暮らしを体験できる場所です。
50代で東京の仕事をリタイアし那珂川町へ移住したというオーナーの庄山政男さんに、これまでの道のりや農園民泊での仕事のやりがいについてお伺いしました。
手間ひまかけた料理と豊かな自然が自慢
__立派な建物ですね!ここはどんな場所なのでしょうか?
庄山政男さん(以下、庄山):築120年以上の古民家を改修し、1日1組限定の民泊をやっています。宿泊だけでなく年間を通して田植えや稲刈り、野菜の収穫や味噌作りなどの体験をすることもできます。
食事の内容にもこだわっていて、自家菜園や地元農家さんの無農薬野菜、ジビエを使った料理、穀物と野菜を中心とした病気の予防食などをご提供しています。
今はコロナの影響もあり休んでいますがカフェの営業もしていて、そちらを楽しみに来ていただく近隣のお客様もいらっしゃいました。状況が落ち着いてきたら曜日を決めて週に1〜2回ランチの営業ができたらいいなと思っています。
▲軒先には新たにデッキスペースを増築。
__お料理もご自身で作っていらっしゃるんですか?
庄山:自分で作っています。料理は習っていたのですが実際にカフェを営業するとなるとレシピが浮かんでこなくて。那須で自然食について勉強したり、野菜ソムリエやフードヘルスマイスターの資格を取って、自然食に詳しい方に教えてもらいながら試行錯誤しているうちに考案できるようになりました。
食材自体が活きてくるように加熱の方法や時間にもすごい凝って作っているので時間はかかります。でもお客様から「シンプルな料理なのに、食べたことがないような味でびっくりしました」と言われたりしてそれはうれしいですね。
ここへ来るお客様は小さいお子さん連れのご家族や、自然食や予防食にご興味のある方が多いんです。周辺はできるだけ自然の状態を保っているので、クワガタがいたり都会ではできない自然体験ができることも好評いただいています。
▲暖かい囲炉裏を囲んで食事をすることもできる。
テレビ番組を見て「ここに住めたら最高だ!」と確信
__庄山さんは東京ご出身ということですが、どうしてこの町で宿を始められたのでしょう?
庄山:きっかけはテレビでした。ある番組で那珂川町のことをやっていたんです。その番組がまたすっごく良くて(笑)。那珂川町の豊かな自然や温泉や特産品がとても魅力的でここに住めたら最高だなと思いましたよ。昔から宿をやるのが夢で農業にも興味があったので、この土地で家を建ててそこで農家民宿をやろうと思ったんです。
那珂川町には20年間無料で土地を貸し出している場所があって、始めはそこに新築を建てる計画で1年かけて設計までしたのに、結局予算が膨らんでいって新築を建てるのは断念しました。それで今の古民家を紹介してもらって改修して宿にしたんですが、それもかなり費用がかかっちゃいました(笑)。そんなこんなで6年前に開業したときは、農園の管理もあるし運転資金を稼ぐのに必死で本当に大変でしたね。
__昔から宿を経営したいと考えていたのですか?
庄山:昔から宿をやるのが夢でしたね。まだ20代だった頃、会社を辞めてペンション経営をやるんだ!と意気込んでペンションスクールに通ってたこともあるんですよ。会社に行きながら勉強して、いざやろうと思ったらバブルがはじけちゃって。だから本当にやらなくてよかったです。やってたら借金だけになっちゃってたでしょうね。
でもずっと田舎暮らしをして宿泊施設をやりながらいろいろな人と出会って交流したいという夢は持っていました。年をとるにつれてだんだん農業にも興味を持つようになっていきました。それで、農業についても山梨県や那須町の有機農家さんのところで勉強をさせてもらいました。
仕事は定年まで勤めるはずでしたが、母の体調のことや震災の影響を受け会社の状況も行き詰まっていたので、52歳で早期退職して那珂川町へ移住しました。
__そいえば気になっていたのですが、農家民泊ではなく農園民泊なのはなぜなのでしょう?
庄山:農家でも良かったのですが、なんとなく格好つけちゃって農園民泊にしたんです。だから深い意味はなくて(笑)。農園っていうとぶどうとかりんごとか果樹系の作物をやっているところが多いんですよね。そこに合わせるわけではないんですが、今後は果樹の栽培も増やしていこうとしています。
__農地の規模も大きいのですね。
庄山:こっちへ来て農家の資格も取ったんです。農家の資格を取るには最低5反の面積を農地として持っていなくてはならなくて、「えー!5反も!?」と思いながら畑を借りて・・・。
__かなり大変そうですね。
庄山:すっごい大変ですよ(笑)。でも昔から、果樹と花と野菜を育てて田舎で農的な暮らしをするつもりだったので、作物はこれからがんばって増やしていきたいと思います。農家として稼いでいくのではなく宿のお客様に提供できる量を作る必要があるので、機械を入れたりするのは違うかなと思い、手作業でやっているので余計に大変ですね。
__たしかに家庭菜園よりも大きく、慣行農家よりは小さいという規模感ですもんね。
庄山:でもその規模だからできることもあります。今グリーン・ツーリズム※を推進しようという動きは全国的にありますが、農家さんで体験ツアーを組むのってむずかしい場合が多いんです。 農家さんはすごく忙しいのでお客様に付き添ったりする時間がそもそもなかったり、体験というかたちでお客様が来ても食事や宿泊はまた別の場所で、となると時間もお金もかかります。
私のような規模のところで農業体験もして食事もして宿泊もできるという施設は経済的にも時間的にも適していると思っています。なのでここでグリーンツーリズムのツアーを実施することもできるし、私が農家さんともっと結びついて連携し、うまく運営していくこともできるのではと考えています。
▲広々とした和室はレンタルスペースとしても利用できる。
※グリーン・ツーリズム・・・地域による農業漁業などの体験を通して、地域固有の魅力を観光客に伝えることにより農村漁村の活性化を図る新たな観光のあり方。
“農家さんの支援”をテーマに活動していきたい
__これからやっていきたいことはありますか?
庄山:移住してきた頃からずっと、農家さんを応援していきたいという気持ちがあります。農家さんの力になれることをして那珂川町の活性化にもつながるようなことをしていきたいです。
農園民泊としての基盤はできてきたので、そういう取り組みが少しずつできるような状況になってきました。これから増えていく移住者の方々ともつながって楽しい企画ができたらいいですね。
今実際にグリーンツーリズムの関係で、田舎暮らしや農業に興味のある方に那珂川町に来てもらって農家さんのお手伝いをしていただく企画を考えています。“体験以上就労未満”といったかたちで、参加者の方には楽しんでもらい、農家さんにはプラスとなることを目的としています。
私や私と同じような業態の人たちが参加者と農家さんをうまくつないでこういった仕組みを作って広げていけたらいいなと思っています。
__田舎暮らしや農業体験は、今注目のキーワードですね。
庄山:デスクワークで疲れている人にとっては、リフレッシュになりますし何より農業体験は楽しいですからね。休みの日に田舎に行きたいという人も増えているのかなと思います。
同時に農家さんにとってプラスの力になれば喜んでもらえますし、こういったかたちで農家さんのバックアップをしていけたらうれしいですね。今後も地域の方々とのつながりを広げていくことで、自分もここで楽しくやっていきながら成長もできるのかなと思います。
取材を終えて
古民家に宿泊し、豊かな自然の中で田舎暮らしを体験しながら心のこもった料理をいただける「菜花の庄」。最高のおもてなしを提供する庄山さんは大変勉強熱心で、料理や農業の技術を磨く努力を惜しみません。那珂川町にとって大きなエネルギーを生み出すであろう庄山さんの活躍が今後も楽しみです。
▼「菜花の庄」についてはこちら!