高齢者の暮らしを守りたい。地域の人々の健康と生活を支える移動スーパー
written by 川西里奈
栃木県那珂川町、小砂地区にある旧馬頭西小学校を訪問すると、校舎の裏側で作業をしている男性の姿が。早速お話を伺ってみましょう!
佐藤豊彦(さとうとよひこ)
宮城県仙台市出身。製造業のエンジニアから那珂川町の地域おこし協力隊に転身。2019年に合同会社繋ごう農村を設立。移動販売を通して地域の高齢者の生活をサポートする事業を展開している。
1週間で200軒以上を訪問し、高齢者の暮らしをサポート
__今は何をされているところですか?
佐藤豊彦さん(以下、佐藤):明日、東京でマルシェに出店して有機野菜を販売するので、移動販売車を八百屋仕様に変えているところです。
普段はこの移動販売車でお年寄りにパンや惣菜、ご飯のお供になるようなものなど、調理が必要なく食べられる食品の販売をしています。
▲佐藤さんの移動販売車『ツナゴー(繋ごう)』。
__どれくらいのお客さんがいるのですか?
佐藤:先週は1週間で227人のお客さんのところを回りましたね。日光市と矢板市を除く、県北全域をカバーしています。
▲「この四角いマークが付いているところを回っています」(佐藤さん)。
__けっこうたくさんありますね。1軒1軒のお家を回っているのですか?
佐藤:そうです。なかなか地道ですよ。ある場所を回ったらみんなが来てくれるっていうわけではないので、本当に1軒1軒回るんです。カバーエリアもどんどん広がってきたので、けっこう根性がいりますね(笑)。
週に何回かは食品の販売だけでなく、コミュニティナースが同行して高齢者の健康サポートも行っています。
__コミュニティナースですか?
佐藤:地域の人たちとの関わりの中で活躍する看護師さんのことです。
健康の相談にのったり病院の診察に付き添ったり、年末の大掃除で神棚が掃除できないおばあちゃんをお手伝いしたり。お客さんの中には、コミュニティナースを頼りにしてくれている人もたくさんいます。
__どういうきっかけでコミュニティナースさんが同乗するようになったのですか?
佐藤:買い物へ行くのが困難な方や高齢者の方から、健康の相談にのってくれるサービスがあると助かるという声がありました。それから、ちょうど看護師の方がコミュニティナースをやりたいと声をかけてくれたので、いっしょに乗って地域を回ることになりました。
__買い物だけでなく健康の面でもサポートが受けられるのですね。
▲商品の準備や在庫の管理は、旧馬頭西小学校の給食配膳室で行っている。
脱サラし、那珂川町の地域おこし協力隊に
__佐藤さんは移動販売を始めるまでは何をされていたのですか?
佐藤:茨城県日立市の製造業の会社で技術系の仕事を20年以上やっていました。40歳を過ぎてけっこうなハードワークだったので、これは一度リセットしたほうがいいなと思っていた頃、社内でリストラの話があって思い切って辞めちゃいました。その後、那珂川町の地域おこし協力隊になりました。
__那珂川町の地域おこし協力隊から、移動販売事業をやろうと思ったのはなぜだったのでしょう?
佐藤:地域おこし協力隊をやりながら起業スクールに通って経営のことなどを勉強し、退任後何をやるか、一生懸命検討していました。その頃、移動販売の仕事をするきっかけとなった出来事がありました。
私はバイクで日本各地を回るのが趣味なのですが、北茨城市の過疎が進んでいる村を訪れたとき、そこで暮らすおばあちゃんが「年をとってもずっとここで暮らしたい」と言っていて。その言葉がなんか気になっちゃって。多分あれが、この仕事をやろうと思った瞬間だった気がします。
田舎ではスーパーまで歩いて行ける距離に暮らしている方は少ないので、車の運転ができなくなると、町を離れてしまう高齢者が多いんです。そんな状況にある高齢者の方々の生活を支援するために、まずは車で移動販売をすることにしました。
地域おこし協力隊は任期を終えて起業すると100万円の補助金があるので、そのお金を初期費用にして中古車を買って、廃校になった馬頭西小学校の一部を事務所として借りました。
▲2019年に閉校になった馬頭西小学校。
__ハードワークだった以前と比べて、今のお仕事はどうですか?
佐藤:今もなかなか大変ですが、会社員だった頃は深夜2時とか3時までやってましたから、それに比べたら全然楽です。自分の好きなパソコンいじりも業務に活かせますし(笑)。
__なるほど。パソコンでデータを集計して経営に活かしているのですね!
佐藤:そうなんですよ。この需要予測ツールを利益率の向上に役立てています。田舎の移動販売はお客さんが少ないので、在庫ロスが残ると全然商売になりません。そこを真面目に分析しロスを抑えていて、いずれは完全に売り切ることを目指しています。
__ツールもご自身で開発しているのですね。
佐藤:需要予測ツールという名前がなんとなくすごそうな感じがするでしょ?こんな感じで売れ筋がわかるようになっているんです。
▲「勝手に何をいくつ発注するべきか計算されて出てくるんですよ」(需要予測ツールをいじる佐藤さん)。
それで本当にロスを最小限にできるなんてすごい!でも、お値段を見ているとけっこう安いですよね。移動している分ものせてこの値段なのですか?
佐藤:もちろん儲けがないと困るんで、利益が出るようにはなっています。地域によりますが、宇都宮あたりのスーパーに比べるとうちのほうが安いものもけっこうあって、いつも勝ったな!と思ってます。
対面でのコミュニケーションが健康の鍵
__現在は4人で回っているとおっしゃっていましたが、徐々に仲間が増えていったのですか?
佐藤:近くに移住してきた人がホームページを見てくれて、いっしょにやりたいとフラッと現れてくれたり、そんな感じで仲間が増えたので、車をもう1台増やして4人でやっています。
__これからもっと規模が大きくなるのでしょうか?
佐藤:いえ、もう会社としては規模を大きくするつもりはなくて、フランチャイズ化しようと思っています。たとえば地域おこし協力隊の退任後に起業をできるプランを作ったりしたいですね。
そのためにも、もっと利益率が上がるように工夫していけたらと試行錯誤しています。今はどうしても時間をかけないとたくさん売ることはできないので、そこのハードルを越えることができればいいですね。
▲バリエーション豊富な商品。在庫は最低限を保ちロスはほとんど出ていない。
__時間をかけて回っているからこそ、必要としている人のところにサービスが届いているんですよね。
佐藤:やっている中で初めに思っていたよりも需要があることがわかりました。こんなところでも買ってくれる人いるんだ、とびっくりすることもあります。たとえばドラッグストアの向かいに住んでいても家に来てほしいっていうお客さんもいるんです。多くの方に必要としていただけることにいつも感謝を忘れないようにしています。
__お店に行くよりも家に来てもらって、そこで会話があって、というのが大事なのかもしれませんね。
佐藤:そうですね。今日行ってきたお客さんは膝が悪くて歩くのも厳しく、認知症も進んでいました。でも最近行く時間が少しでも遅れると「ちょっと遅かったね!」なんて言われてしまって(笑)。初めて行った頃に比べるとすごくしっかりしているんです。
やっぱりいつも訪問してコミュニケーションをとっていると、多少認知症レベルが改善することもあるのかもしれません。
__人と会うことや会話することってとても大事ですね。
佐藤:お客さんたちを見ているとそう感じます。移動スーパーにもそういう効果があるかもと思って始めたんですけど、意外とそこはずれてなかったみたいですね。
ではそろそろ仕事に戻ります!
__佐藤さん、ありがとうございました!
取材を終えて
かかる経費を最小限に抑えるなどの細やかな工夫によって、農村で暮らすお年寄りのひとりひとりにまで行き渡っている、繋ごう農村のサービス。今日も栃木県のどこかを駆け回る佐藤さんは、地域の人たちに笑顔と健康の輪を広げています。
▼繋ごう農村についてはこちら!
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