安全で高品質なジビエ『八溝ししまる』。その味に隠された職人の“気持ち”とは?

レッド

written by 川西里奈

イノシシの肉というと、ちょっとクセのあるイメージ。
しかし栃木県那珂川町のジビエブランド『八溝ししまる』は、くさみが少なくほどよい食感でとってもおいしいのだとか。

2021年7月に発見された豚熱ウイルスの感染拡大の影響で、現在は販売中止となっていますが、普段は那珂川町の道の駅や飲食店、宿泊施設で八溝ししまるのお肉を使った料理を味わうことができるそうです。

今回は八溝山地で捕獲されたイノシシの加工・販売をしている施設を特別に見学させていただきました!

高沢和也(たかさわかずや)

那珂川町の八溝山地で捕獲されたイノシシを加工して販売する『八溝ししまる』に勤務。自らも狩猟を行う。趣味は包丁を研ぐこと。

道具までピカピカ!ここが本当にイノシシの解体場!?

__ここはどういった施設なのでしょうか?

 

高沢和也さん(以下、高沢):ここは八溝山地で捕獲されたイノシシ肉の加工と販売をしています。

 猟師さんがくくり罠や箱罠でイノシシを捕獲したらスタッフが現場へ行って、肉質の安全を確認したあと止め刺しをします。

 止め刺しをしてから肉の腐敗はどんどん進んでいきますので、イノシシ号と呼ばれている冷凍車でマイナス5〜7℃に冷凍してこの施設に運びます。

 

▲止め刺しをしたイノシシは、マイナス5〜7℃の冷凍車(通称イノシシ号)に乗せて運搬。

 

次は内臓を取ったり皮を剥いだりする作業が行われます。内臓に病気を持っていないかなど隅々まで確認し、何か異常があったときにはその場で作業を中断します。

 

▲皮剥ぎ用の刃物。「スタッフ一同、道具は毎日のように磨いています」(高沢さん)。

 

道具もピカピカ!皮を剥いだり、内臓を取ったりしている場所とは思えないくらい清潔感がありますね。

 

高沢:他の施設もたくさん見たことがありますが、イノシシ肉の加工施設でこんなにきれいなところはなかなかありません。ここのスタッフはみんなきれい好きで、施設の中や外もきれいに掃除、整頓をしています。

 

__イノシシがここに運ばれてきて、皮剥ぎが完了するまでどれくらいの時間がかかるんですか?

 

高沢:止め刺しをして皮を剥ぐまでは2時間以内。通常、皮剥ぎは1時間くらいかかりますが、この施設では基本的に30分で終わらせます。いかに早く冷蔵庫へ持っていけるか、常に時間との戦いです。

 

このあと、マイナス1〜2℃の冷蔵庫で1〜2日間寝かせます。第二の血抜きとも呼ばれる工程で、余分な水分が抜けて肉が熟成され、くさみがやわらぎます。

 

▲多いときでは1日に9頭解体することも。「室内の温度は衛生的な観点から、通年18℃以下を維持しています」(高沢さん)。

命をいただいているから“ごじゃっぺ”は許されない

高沢:次の工程では熟成した肉をこちらで脱骨(だっこつ)していきます。骨に肉を残さずに、かつ肉に刃物を入れすぎないように丁寧に取っていきます。

 

__長年の経験が必要になりそうな作業ですね!

 

高沢:そうですね。長年の経験と技術、そして気持ちが大事ですね。

 

__“気持ち”ですか?

 

高沢:そうです。スタッフみんなに共通している「必ず良い商品を作る」という思いのことです。山の神様から命をいただいているので、ごじゃっぺ(いい加減)な仕事をするわけにはいきません。感謝の心を忘れず、細かいところまで丁寧に仕上げていくのが一番大事なことです。

 

▲獣魂碑に手を合わせる高沢さん。毎朝スタッフの誰かが必ずお参りをする。

 

このあとのトリミングという作業は筋や血管を取るのでかなり細かいのですが、肉の味に影響する大事な工程なので気を抜かずに丁寧に作業します。

 

__コツはどんなところでしょう?

 

高沢:硬いのはもちろんダメですし、豆腐みたいに柔らかすぎてもおいしくありません。イノシシの肉なのだから、適度な噛みごたえも必要です。そのため「この筋をあえて残す」という判断をするときもあります。

 

__イノシシ肉を加工する仕事のおもしろさってどんなところですか?

 

高沢:飼われている動物ではないから、獲れる季節や場所、食べているものによって肉の質が違います。那珂川町の山はアップダウンが激しいので肉が引き締まっていますが、益子のほうは少し太っていたり。牛屋さんの近くで獲られたイノシシは、牛の餌を食べているから脂がのっていたり。

 

その違いを見極めながら、この肉はどう処理していくのが適切か考えるのはむずかしいですが、おもしろいところでもあります。

 

ここのスタッフは負けず嫌いで努力家だから、毎回毎回腕を磨いていっています。いつもは冗談ばかり言っていても仕事には真剣に向き合っているんです。みんな包丁を持つと顔つきが変わります。

 

__和やかな雰囲気の職場ですが、イノシシに向かう姿勢は真剣なのですね。かっこいいです!

 

高沢:13年前にこの施設ができてこれまで続いてきたのは、スタッフみんなが仕事に対する真剣な気持ちを貫いてきたからだと思います。

 

ここ数年で「八溝ししまる」のイノシシ肉はおいしいと皆さんに言っていただけることが増えて、全国から注文が入るくらい知名度も上がっていました。それだけに、豚熱で稼働できないのはとても悔しいですが、再開後はもっともっと皆さんに知っていただけるよう、より一層がんばっていきます。

BBQにも最適!ほどよく脂がのった絶品イノシシ肉

高沢:トリミングのあとは1週間〜10日冷凍して、こちらのスライサーで切っていきます。ここで切るときは肉の目に逆らうような感じで切ると柔らかくなります。

 

▲ピカピカに磨かれたスライサー。商品はこのあとすべて真空パックに梱包される。

 

高沢:最後は金属探知機にかけて、すべての商品の安全をチェックしています。でも金属探知機で異物が見つかる時点で、僕らにとってはミスなんです。ここまでの工程をしっかりやって、いかにミスを防げるかが重要です。

 

▲肉に異物が混入していないかチェックする金属探知機。

 

商品は枝肉やブロック肉など多数あります。夏になるとBBQでお子さんたちに人気なのが『Tボーン』。イノシシ肉でこのような商品を作っているのもうちだけです。

 

__ここまで品質にこだわった商品となると、値段的にはやはり高級なんですか?

 

高沢:いえ、値段はどちらかというと安いです。ここは役場の運営する施設ということもあるし、元々害獣駆除が目的であり営利目的ではありません。獲ったイノシシを捨ててしまうのではなく活かすことはできないか、ということでこの施設が作られました。高品質でありながら、安いという点でもお客様に喜んでいただいています。

 

▲全部で65種類ある商品。「お客様のニーズに合わせた商品も作っています」(高沢さん)。

 

__ちなみに、イノシシ肉が特においしい季節ってあるんでしょうか?

 

高沢:10月半ば〜4月までは脂がのっていておいしいですよ。逆に夏はさっぱりしていますので、そっちのほうが好きという方も多いです。イノシシ肉は基本的には豚ほど脂こくないので女性に人気がありますね。

 

__話を聞けば聞くほど、食べたくなってきました!

 

高沢:豚熱の影響が収まるまでは出荷できませんが、再開したらぜひ食べてみてください。八溝ししまるの肉を食べたら、イノシシ肉のイメージが変わると思います!

 

取材を終えて

素早い下処理と徹底した衛生管理により、高品質のイノシシ肉を提供している八溝ししまる。実際にスタッフの皆さんにお話を伺うと「山の命をいただいていることに感謝し、必ずおいしい商品にして出荷するのだ」という熱い心が、何よりもその味に影響しているのだと感じました。

高沢さんいわく、炭火で焼いてシンプルに塩だけで食べるのが一番おいしいのだそう。想像しただけでたまりません。八溝ししまるの復活の日が待ち遠しくなった今回の取材でした。 

『八溝ししまる』の最新情報についてはこちらから!

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